
「自己破産をすれば、慰謝料や養育費の支払いも免除されるのでは」と考える方は少なくありません。しかし、結論からお伝えすると、養育費は自己破産をしても免責されず、支払い義務がそのまま残ります。
一方、慰謝料は内容によって免責される場合とされない場合に分かれます。
この違いを知らないまま手続きを進めると、「借金はなくなったのに、想定していなかった支払いが残っていた」という事態になりかねません。
実際、債務整理相談ナビが離婚経験のある自己破産経験者100人に行った調査では、13.6%が「説明が不十分で後から知った」と回答しています。
この記事では、自己破産をしても支払い義務が残る「非免責債権」の仕組みを整理したうえで、養育費・慰謝料それぞれの扱い、支払いが難しいときの対処法、そして受け取る側が相手の自己破産に直面した場合の対応まで解説します。
養育費は免責されない・慰謝料は内容によって分かれる
まず、自己破産と慰謝料・養育費の関係を一覧で整理します。
| 債権の種類 | 自己破産で免責されるか | 根拠 |
|---|---|---|
| 養育費 | 免責されない(滞納分も含む) | 破産法253条1項4号 |
| 婚姻費用 | 免責されない | 破産法253条1項4号 |
| 離婚慰謝料(一般的なもの) | 免責される場合が多い | 非免責債権に該当しないため |
| 悪意で加えた不法行為による慰謝料 | 免責されない | 破産法253条1項2号 |
| 故意・重過失で生命や身体を害した慰謝料(DVなど) | 免責されない | 破産法253条1項3号 |
自己破産で免責許可決定が確定すると、原則として借金の返済義務は免除されます。しかし法律は、免責の効力が及ばない債権を「非免責債権」として定めており(破産法253条1項)、養育費と一部の慰謝料がこれに含まれます。
自己破産の基本的な仕組みや手続きの流れは、自己破産とは?借金がゼロになる仕組み・デメリット・流れをわかりやすく解説で解説しています。
非免責債権とは:自己破産しても支払い義務が残る債権
非免責債権とは、免責許可決定が確定しても支払い義務が免除されない債権のことです。破産法253条1項は、以下の債権を非免責債権として定めています。
| 号 | 非免責債権の内容 |
|---|---|
| 1号 | 租税等の請求権(税金・社会保険料など) |
| 2号 | 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権 |
| 3号 | 破産者が故意または重大な過失により加えた人の生命または身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権 |
| 4号 | 夫婦間の協力扶助義務、婚姻費用の分担義務、子の監護に関する義務、扶養義務などに係る請求権 |
| 5号 | 雇用関係に基づく使用人の請求権(給料など) |
| 6号 | 破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権 |
| 7号 | 罰金等の請求権 |
養育費は4号の「子の監護に関する義務に係る請求権」にあたるため、法律上明確に非免責債権です。一方、慰謝料は2号・3号に該当するかどうかで扱いが分かれます。この点を次の章から順に見ていきます。
自己破産しても養育費の支払い義務は残る
養育費は、離婚後も親が子に対して負う扶養義務にもとづく支払いです。子の生活を守るための債権であるため、破産法は明確に非免責債権と定めており、自己破産をしても支払い義務は一切なくなりません。
滞納していた過去の養育費も免責されない
「これから発生する養育費は払うとして、滞納していた分は免責されるのでは」と考える方もいますが、過去の未払い分(滞納分)も非免責債権に含まれます。
自己破産をしても、滞納した養育費の請求権は消えず、免責後も相手方から請求や強制執行を受ける可能性があります。
破産手続中も養育費の支払いは続く
自己破産の手続き中であっても、養育費の支払い義務は止まりません。手続き後の生活設計を立てる際は、毎月の養育費を固定の支出として織り込んでおく必要があります。
養育費の支払いが難しいときは減額の調停を検討する
自己破産に至るほど家計が悪化している場合、従来どおりの養育費を払い続けるのが現実的に難しいケースもあります。その場合でも、支払いを放置するのではなく、次の方法で金額の見直しを求めることができます。
- 相手方との話し合い:収入状況を説明し、金額や支払い方法の変更について合意を目指す
- 養育費減額調停:話し合いがまとまらない場合、家庭裁判所に調停を申し立てる。収入の減少など「事情の変更」があれば、減額が認められる可能性がある
養育費の金額は、取り決めた時点の収入を前提に決められています。自己破産に至るような収入の変化は事情の変更にあたり得るため、一方的に支払いを止めるのではなく、正式な手続きで見直しを求めることが重要です。
慰謝料は「免責される場合」と「されない場合」がある
慰謝料は養育費と異なり、一律に非免責債権とされているわけではありません。慰謝料の原因となった行為の性質によって、免責の可否が分かれます。
免責される慰謝料の例
破産法253条1項2号・3号のいずれにも該当しない慰謝料は、免責の対象になります。たとえば、次のようなケースです。
- 性格の不一致など、一般的な離婚にともなう慰謝料
- 不倫(不貞行為)による慰謝料の多く
不倫慰謝料については、「悪意で加えた不法行為」にあたるかが争点になりますが、ここでいう「悪意」は単に故意という意味ではなく、相手を積極的に害する意図を指すと解されています。
そのため、一般的な不貞行為による慰謝料は免責されるケースが多いとされています。ただし、相手を精神的に追い詰める意図があったと認められるような悪質なケースでは、非免責と判断される可能性もあり、最終的には個別の事情によります。
免責されない慰謝料の例
次のような慰謝料は非免責債権にあたり、自己破産をしても支払い義務が残ります。
- 悪意で加えた不法行為にもとづく慰謝料(2号):相手を害する積極的な意図をもって行われた行為によるもの。名誉毀損による慰謝料が該当し得る例です
- 故意または重大な過失により、人の生命や身体を害した不法行為にもとづく慰謝料(3号):DV(身体的暴力)による慰謝料、故意の傷害によるものなど
交通事故の慰謝料はどうなる?
交通事故の損害賠償・慰謝料も、3号の基準で判断されます。
飲酒運転や無免許運転、著しい速度超過など重大な過失によって人の生命や身体を害した場合の賠償責任は免責されません。一方、通常の過失による物損事故の賠償などは、免責の対象になり得ます。
自分のケースがどちらにあたるかは事故態様や過失の程度によるため、手続き前に弁護士へ確認しておくべき論点です。
慰謝料・養育費の支払いが難しいときの対処法
免責されない支払いが残る場合でも、無断で支払いを止めるのは避けるべきです。放置すれば強制執行のリスクがあるうえ、話し合いの余地も狭まります。次の3つの対処法を検討してください。
相手方に分割払い・減額を相談する
一括での支払いが難しくても、分割払いであれば合意できる場合があります。支払いが苦しくなった時点で早めに相手方へ相談し、合意した内容は後日のトラブルを防ぐため書面に残しておきましょう。
養育費については、前述のとおり家庭裁判所の減額調停という正式な手続きもあります。
自己破産以外の債務整理も比較する
慰謝料・養育費以外の借金が家計を圧迫している場合、自己破産だけが選択肢ではありません。
将来利息のカットを目指す任意整理や、借金を大幅に減額しながら財産を残せる可能性のある個人再生など、状況に応じた手続きがあります。
なお、個人再生でも養育費などの扶養義務にもとづく請求権は減額の対象外です。どの手続きが適しているかは、債務整理の種類と選び分けで比較できます。
弁護士へ早めに相談する
自分のケースで慰謝料が免責されるかどうかは、発生した経緯や請求内容によって判断が分かれます。免責の見通し、他の債務整理との比較、相手方との交渉方針まで含めて、早い段階で弁護士に相談することで選択肢が広がります。
経験者100人調査:7割超が自己破産後も支払いを継続している
債務整理相談ナビでは、自己破産の手続きを行った経験があり、手続き時に離婚していた100人を対象に、慰謝料・養育費の実態を調査しました(2026年6月実施)。
| 調査項目 | 結果 |
|---|---|
| 慰謝料・養育費のいずれか、または両方の支払い義務があった | 81.0% |
| 免責されないことを事前に弁護士からしっかり説明された | 82.7%(n=81) |
| 自己破産後も支払いを継続している | 72.8%(n=81) |
| 支払いが困難で別途交渉中 | 21.0%(n=81) |



8割以上が事前に弁護士から説明を受け、7割超が手続き後も支払いを継続している一方、「説明が不十分で後から知った」も13.6%存在しました。何が免除され、何が残るのかを手続き前に把握できているかどうかが、その後の生活再建の見通しを左右します。
調査の詳細データは自己破産後も慰謝料・養育費の「支払いを継続している」は72.8%——離婚時に支払い義務があった経験者100人の実態調査で公開しています。
受け取る側:相手が自己破産した場合にできること
ここまでは支払う側の視点で解説しましたが、慰謝料や養育費を受け取る側が、相手の自己破産に直面するケースもあります。
養育費はそのまま請求・強制執行できる
養育費は非免責債権のため、相手が自己破産をしても、受け取る側の請求権は一切影響を受けません。滞納分も将来分も、引き続き請求できます。
支払いが滞った場合は、調停調書や公正証書などの債務名義があれば、相手の給与などを差し押さえる強制執行が可能です。養育費には次の特例が認められています(民事執行法151条の2・152条3項)。
- 一部に不払いがあれば、将来分もまとめて差押えを申し立てられる
- 給与の差押え可能範囲は、通常の債権の手取り4分の1に対し、養育費では手取りの2分の1まで認められる
具体的な申立て方法は、裁判所の債権執行等(養育費等に基づく差押え)で案内されています。
慰謝料は免責されると請求できなくなる
一方、慰謝料が免責の対象になった場合、免責許可決定の確定後は、受け取る側は支払いを法的に請求できなくなります。
公正証書や確定判決を持っていても、免責を防ぐ効果はありません。これらは債権の存在を証明する書面であり、実際に回収できるかどうかは、その慰謝料が非免責債権に該当するかどうかで決まります。
相手の破産手続が始まった場合、自分の慰謝料が非免責債権(悪意の不法行為・生命身体への故意重過失)にあたると考えられるときは、その旨を主張していくことになります。該当するかどうかの判断は専門的なため、弁護士への相談を検討してください。
よくある質問
まとめ:免責の範囲を手続き前に確認することが生活再建の第一歩
最後に、この記事のポイントを整理します。
| 項目 | 結論 |
|---|---|
| 養育費 | 免責されない。滞納分も残る。支払い困難なら減額調停を検討 |
| 慰謝料(一般的な離婚・不倫) | 免責される場合が多い(個別事情による) |
| 慰謝料(悪意・DVなど) | 免責されない(破産法253条1項2号・3号) |
| 受け取る側 | 養育費は相手の破産後も請求・強制執行が可能 |
| 経験者の実態 | 72.8%が自己破産後も支払いを継続(当ナビ調査) |
自己破産は借金問題を解決する強力な手続きですが、慰謝料・養育費の扱いはケースによって異なり、免責の範囲を誤解したまま進めると手続き後の生活設計が崩れかねません。離婚にともなう支払い義務を抱えている場合は、自分のケースで何が免除され、何が残るのかを、手続き前に弁護士へ確認しておきましょう。
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