
「自己破産に至るのは、浪費やギャンブルが原因の人が多い」そうしたイメージから、「自分はそこまでではない」と感じ、相談をためらう方も少なくありません。
しかし、日本弁護士連合会(日弁連)が実施した全国規模の実態調査を見ると、自己破産に至る理由の多くは、私たちの日常生活に直結する事情であることがわかります。
2023年に公表された同調査では、全国47都道府県・50地方裁判所における自己破産事件1,233件の確定記録を分析した結果、自己破産の理由として最も多かったのは「生活苦・低所得」(65.86%)でした。続いて 「病気・医療費」(26.44%)、「生活用品の購入」(18.00%) が上位に並んでいます。
これらのデータから見えてくるのは、特別な浪費や一部の人だけの問題ではなく、生活を維持するための支出や、避けにくい事情が重なった結果として自己破産に至るケースが多いという実像です。
この記事では、日弁連の公式調査データをもとに、自己破産する人の理由や年齢層、男女比といった実態を整理し、
「自分だけが特別なのではないか」と感じている方が、状況を客観的に捉えるための材料を提供します。
本記事で使用する日弁連調査の概要と信頼性
全国47都道府県・50地方裁判所を対象にした公式調査
本記事で紹介するデータは、日本弁護士連合会(日弁連)消費者問題対策委員会が実施した「多重債務者の実像と破産事件・個人再生事件の実態調査(2023年調査)」に基づいています。
この調査は、全国47都道府県すべて・50の地方裁判所を対象に行われたもので、特定地域や一部の裁判所に偏らない、全国網羅型の調査です。
2022年に申立てられた事件から無作為抽出した確定記録を分析
調査対象となったのは、2022年6月1日から11月30日までに自然人から申立てがなされた破産事件・個人再生事件のうち、すでに確定した裁判記録です。
全国の各地方裁判所において、
- 原則として各20件
- 高等裁判所所在地では各50件
の破産事件が、無作為抽出(ランダムサンプリング)により選定されています。
この方法により、特定の地域や属性に偏らない、全国平均に近い自己破産の実像が把握できる調査設計となっています。
2022年の自己破産件数全体と比べたときの位置づけ
2022年に全国の裁判所で受理された個人(自然人)の自己破産申立件数は約7万件にのぼります。これに対し、本調査で分析対象となっている自己破産事件は1,233件です。
数字だけを見ると、調査対象は全体の一部にすぎないようにも感じられます。
無作為抽出された確定記録である点が重要
しかし、この調査は、
- 全国47都道府県・50地方裁判所を網羅
- 各裁判所から無作為に抽出
- すでに裁判所で確定した記録のみを対象
という方法で行われています。
そのため、特定の地域や属性、特殊な事例に偏ったものではなく、2022年当時の自己破産申立ての傾向を把握するには十分に意味のあるデータといえます。
自己破産に至る理由で最も多いものは何か
1位は「生活苦・低所得」(65.86%)
日弁連の調査によると、自己破産に至った理由として最も多いのは「生活苦・低所得」で、全体の65.86%を占めています。
これは、日常の生活費を賄うことができない、あるいは収入が減少した結果、借入れに頼らざるを得なくなり、返済が困難になったケースを指します。
上位には日常生活を維持するための支出が並ぶ
日弁連の調査によると、自己破産に至った理由のうち、2位は「病気・医療費」(26.44%)、3位は「生活用品の購入」(18.00%)でした。
失業や転職(17.36%)も上位に入っていますが、それ以上に、日々の生活を続けるための支出そのものが家計を圧迫している実態が、データから読み取れます。
自己破産に至る理由(2023年調査)
| 順位 | 破産理由 | 23調査 | 20調査 | 増減 |
| 1 | 生活苦・低所得 | 65.86% | 61.69% | +4.17 |
| 2 | 病気・医療費 | 26.44% | 23.31% | +3.13 |
| 3 | 生活用品の購入 | 18.00% | 14.76% | +3.24 |
| 4 | 失業・転職 | 17.36% | 17.58% | ▲0.22 |
| 5 | 負債の返済(保証以外) | 14.92% | 20.48% | ▲5.56 |
| 6 | 浪費・遊興費 | 12.81% | 11.37% | +1.44 |
| 7 | 給料の減少 | 11.44% | 9.60% | +1.84 |
| 8 | クレジットカードによる購入 | 11.68% | 9.35% | +2.33 |
| 9 | ギャンブル | 9.89% | 7.18% | +2.71 |
割合が最も高いのは「生活苦・低所得」で、全体の約3分の2を占めています。
また、前回調査(2020年)と比べると、「生活用品の購入」「病気・医療費」「クレジットカードによる購入」「ギャンブル」などが増加しており、日常生活を維持するための支出や、家計を圧迫する要因が強まっている傾向が読み取れます。
過去(2008年前後)との比較から見える:自己破産の構造的変化
2008年と2023年を比較すると、「生活苦」が不動の1位であることは変わりませんが、その「周辺の要因」が劇的に変化していることがわかります。
破産理由の増減比較表(2008年調査 vs 2023年調査)
2008年当時は「商売の失敗」や「無理な借金(浪費)」が破産の目立つ要因でしたが、現在は「普通に暮らそうとしても、生活基盤が脆弱で破綻してしまう」という、より切実な状況が見て取れます。
増えた要因ベスト4(2008年→2023年)
| 順位 | 負債原因 | 2008年 | 2023年 | 増減(pt) |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 生活用品の購入 | 8.77% | 18.00% | +9.23 |
| 2 | 浪費・遊興費 | 7.21% | 12.81% | +5.60 |
| 3 | ギャンブル | 4.34% | 9.89% | +5.55 |
| 4 | 病気・医療費 | 20.98% | 26.44% | +5.46 |
減った要因ベスト4(2008年→2023年)
| 順位 | 負債原因 | 2008年 | 2023年 | 増減(pt) |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 保証債務・第三者の債務の肩代わり | 25.08% | 10.54% | −14.54 |
| 2 | 負債の返済(保証以外) | 28.20% | 14.92% | −13.28 |
| 3 | 事業資金 | 18.85% | 12.73% | −6.12 |
| 4 | 住宅購入 | 9.59% | 6.08% | −3.51 |
※保証債務と第三者の債務の肩代わりは統合比較
データの増減から読み取れること
2008年と比べて2023年は、保証・事業・他人を巻き込む負債が大きく減少する一方で、生活用品・医療費・消費行動といった日常生活に直結する負債が増加していえます。
これは、自己破産の原因が「一部の事業者や保証人に起きる特殊な問題」から、「一般家庭が生活を維持できなくなる構造的問題」へと移行したことを示していると言えるのではないでしょうか。
現在の自己破産は、無謀な借入よりも収入減少と生活コスト上昇に耐えきれなくなった結果として発生するケースが主流になっているといえる。
自己破産する人の年齢層はどの世代が多いのか
40代は減少、50代・70代以上は大きく増加
| 年代 | 23調査 | 20調査 | 増減(pt) |
| 20歳未満 | 0.00% | 0.00% | ±0.00 |
| 20歳代 | 11.52% | 9.92% | +1.60 |
| 30歳代 | 14.84% | 15.89% | ▲1.05 |
| 40歳代 | 19.22% | 26.94% | ▲7.72 |
| 50歳代 | 25.63% | 21.45% | +4.18 |
| 60歳代 | 16.71% | 16.37% | +0.34 |
| 70歳代以上 | 11.84% | 9.35% | +2.49 |
この表から読み取れる特徴は、次の点です。
若年層も緩やかに増えており、世代を問わない問題に
また、20代も11.52%(+1.60pt)と増加しており、自己破産は高齢者だけ、あるいは中高年だけの問題ではありません。しかもその割合は、11年調査から年々増加しており、社会全体として注意しておきたいと言えるでしょう。
ただ、確かなことは、失業、病気、家計負担の増加など、年代ごとに異なるライフイベントが重なることで、どの世代でも起こり得る問題であることが、年齢別データからも確認できます。
自己破産に男女差はあるのか
| 性別 | 23調査 | 20調査 | 17調査 | 14調査 | 11調査 | 08調査 | 05調査 |
| 男性 | 58.48% | 55.65% | 56.79% | 57.74% | 56.32% | 47.21% | 51.39% |
| 女性 | 41.28% | 44.11% | 43.13% | 42.26% | 43.60% | 52.70% | 48.61% |
男性がやや多いが女性も一定割合を占める
男女比を見ると、男性がやや多い傾向はあるものの、女性も一定の割合を占めており、自己破産が男性だけの問題ではないことがわかります。
性別よりも生活状況や収入環境の影響が大きい
データからは、性別そのものよりも、収入状況や家計の持続可能性が自己破産に大きく影響していることが読み取れます。
日弁連データから見える自己破産の実像
自己破産は特別な人のための制度ではない
全国規模の調査結果を見ると、自己破産は一部の特殊な人だけが利用する制度ではなく、生活の中で起こり得る事情が重なった結果として選択されている制度であることがわかります。
客観的なデータを知ることが判断の第一歩になる
イメージや噂だけで自己破産を捉えるのではなく、こうした客観的なデータをもとに自分の状況を整理することが重要です。
まとめ
日弁連の全国調査データからは、自己破産が特別な人だけの制度ではなく、生活の中で起こり得る事情が重なった結果として選ばれていることがわかります。
一方で、実際に自己破産が適切かどうかは、借金額や収入状況、家計の内容によって大きく異なります。
まずは、債務整理全体の仕組みや選択肢を整理したうえで、自分の状況に近い情報を確認することが大切です。
全件調査ではないが、実像を捉えるには足りている
すべての破産事件を集計したものではないものの、1,200件を超える全国規模の裁判確定記録を同一基準で分析した結果は、自己破産に至る理由や属性の傾向を把握するうえで、信頼性の高い材料になります。
個々の体験談や一部の事例では見えにくい、「全体としての自己破産の姿」を捉えるという点で、この調査は大きな意味を持っていると考えます。
本記事では自己破産データを中心に紹介
なお、この日弁連調査では、破産事件に加えて個人再生事件についても調査が行われていますが、本記事では自己破産に関するデータに絞って紹介しています。
個人再生に関する調査結果については、別記事で詳しく解説します。
- ▶ 債務整理相談ナビ|自己破産・個人再生・任意整理といった債務整理の制度について、公的データや法律に基づき、中立的な立場で情報を整理
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