
個人再生でやってはいけないことは、手続中の新たな借入、財産や収入を隠したり偽ったりする申告、特定の債権者だけへの返済、積立金や書類の期限を守らないことです。どれも、裁判所が再生計画を最後まで払えるか、債権者を公平に扱っているかを判断する材料になり、手続の廃止や不認可の原因になります。
日本弁護士連合会の2023年調査では、個人再生の90.30%が認可決定で終わっています。認可に届かなかった事件の多くは不認可決定ではなく、取下げ(5.69%)と廃止(2.72%)で、手続が途中で止まる形でした。
この記事では、やってはいけない行動を8つに分け、それぞれの理由と代わりにすべきこと、やってしまった後の対処法までを、民事再生法の条文と統計で確認します。
個人再生でやってはいけないことは何?8つを一覧で確認
個人再生でやってはいけないことは、次の8つです。弁護士・司法書士に依頼して申立ての準備を始めた時点から、再生計画通りの返済が終わるまで当てはまります。
| やってはいけないこと | 主な理由 | 起きうること |
|---|---|---|
| 1. 新たに借りる・後払いを使う | 返済を続けられるかが疑われる | 計画が遂行される見込みなしとされる |
| 2. ギャンブルや浪費を続ける | 家計を立て直す前提が崩れる | 積立が続かず廃止・不認可 |
| 3. 財産を隠す・名義を移す・安く手放す | 清算価値の計算が狂う | 手続の廃止、認可後の計画取消 |
| 4. 家計簿や収入の資料に嘘を書く | 返済額の根拠が変わる | 手続の廃止・不認可 |
| 5. 特定の債権者だけに返済する | 債権者を平等に扱う決まりに反する | 返済総額の見直し、追加の説明 |
| 6. 積立(履行テスト)や予納金を払わない | 返済能力を示せない | 計画案を出せない・認可されない |
| 7. 書類や再生計画案の期限を守らない | 書面で進む手続が止まる | 手続の廃止 |
| 8. 認可後の返済の遅れを放置する | 計画の履行を怠ったと扱われる | 再生計画の取消し |
1. 新たに借りる(カードローン・クレジットの分割・後払い決済)
申立ての準備から認可後の返済完了まで、新たな借入、クレジットカードの分割払い、後払い決済は使わないでください。個人再生は、収入から生活費を引いた残りで再生計画を払っていく手続です。借入が増えると、裁判所は再生計画が遂行される見込みがないと判断できます(民事再生法174条2項2号)。
依頼先が債権者に受任通知を送った後に借りると、返すあてがないのに借りたと受け取られるおそれもあります。
- 対策:お金が足りない月は、借りる前に依頼先の弁護士・司法書士に連絡する
- 対策:公的な貸付制度を使う場合も、手続中は事前に依頼先へ相談する
債務整理中の借入がどう扱われるかは、債務整理中に借入するとバレる?任意整理への影響とお金が必要なときの対処法でも確認できます。
2. ギャンブルや浪費を続ける
ギャンブルや浪費が原因の借金でも、個人再生の申立てはできます。日弁連の2023年調査では、個人再生の申立て理由(複数回答)に「ギャンブル」を挙げた人が20.05%、「浪費・遊興費」が23.29%でした。
避けるべきなのは、手続中もギャンブルや浪費を続けることです。家計簿や通帳の出金記録から続けていることがわかると、毎月の積立が続かず、再生計画が遂行される見込みがないと判断される原因になります。
- 対策:申立て前から家計簿をつけ、使い道を通帳の記録と合わせて説明できるようにする
- 対策:自分でやめられないと感じる場合は、精神保健福祉センターなどの依存症の相談窓口も併用する
3. 財産を隠す・名義を家族に移す・安く手放す
個人再生では、持っている財産の金額によって、最低限返さなければならない額が決まります。たとえば預金や車などの財産が合わせて200万円分あれば、返済総額は少なくとも200万円以上にする必要があります。この金額を「清算価値」といいます。
財産を隠すと返済額が本来より少なく計算され、債権者が受け取れるはずのお金が減ります。そのため、財産隠しは裁判所が最も厳しく見る行為の一つです。
財産目録に記載すべき財産を書かなかったり、嘘の記載をしたりすると、裁判所は手続を廃止できます(民事再生法237条2項)。
認可された後に隠していた財産が見つかり、返済総額が清算価値を下回っていたとわかった場合は、債権者の申立てによって再生計画が取り消されることもあります(同法236条)。
申告が必要な財産の例は次のとおりです。
- 預貯金(ネット銀行や使っていない口座を含む)
- 生命保険の解約返戻金
- 自動車、不動産
- 退職金の見込額
- 株式、投資信託、暗号資産、積立
- 高価な貴金属や時計
申立て前に財産の名義を家族に変えたり、相場より安く売ったりすると、財産を減らす行為として説明を求められます。
- 対策:名義変更・売却・解約は自分で判断せず、依頼先に確認してから行う
- 対策:財産にあたるか迷うものも含めて一覧にし、すべて依頼先に見せる
4. 家計簿や収入の資料に嘘を書く
裁判所に出す家計簿(家計収支表)と収入の資料は、毎月いくら返せるかの根拠になります。給与所得者等再生では、手取り収入から最低限度の生活費を引いた額の2年分以上を返す決まりがあり(民事再生法241条2項7号)、収入を少なく書くと再生計画の前提そのものが崩れます。
家計簿は通帳の入出金や給与明細と照らし合わせて確認されます。ギャンブルの支出や副収入を書かずにいると、食い違いとして表に出ます。
同居している家族がいる場合は、家族の収入も含めた家計全体の収支を出すよう求められるのが一般的です。債務整理相談ナビが債務整理の経験者100人に行った調査(2026年6月)では、52.0%が「家族に相談したうえで手続きを進めた」と回答しました。
- 対策:家計簿は実際の支出のとおりに書き、書きにくい支出があれば先に依頼先へ伝える
- 対策:家族に知られずに進められるかは、債務整理は家族にバレる?バレる6つの原因と内緒で進めるための対策で確認する
5. 特定の債権者だけに返す(偏頗弁済)
小規模個人再生の再生計画は、債権者の間で平等でなければなりません(民事再生法229条1項)。受任通知の後に、知人や勤務先、保証人がついた借入だけを返すと、債権者を平等に扱っていないとされます。
返した額を財産があったものとして清算価値に加え、再生計画の返済総額を組み直すよう求められることがあります。
例外として、住宅資金特別条項を使って家を残す場合の住宅ローンは、手続中も払い続けるのが通常です。自動車ローンが残っている車は、ローン会社に引き揚げられる場合があります。
- 対策:誰かに返したいと思ったら、払う前に依頼先に相談する
- 対策:うっかり払ってしまったときは、いつ・誰に・いくら払ったかをまとめてすぐ伝える
6. 積立(履行テスト)や予納金を払わない
多くの裁判所では、申立て後に再生計画で払う予定の額を毎月積み立てる(または個人再生委員の口座に振り込む)ことで、返済を続けられるかを確かめます。方法は裁判所によって異なります。日弁連の2023年調査では、個人再生委員が全職務について選任された事件は17.21%でした。
積立が止まると、再生計画を最後まで払える見込みを示せなくなります。裁判所に納める予納金や個人再生委員の報酬も、期限までに用意が必要です。
- 対策:生活費の口座と積立用の口座を分ける
- 対策:収入が減りそうなときは、滞納する前に依頼先へ連絡する
7. 書類や再生計画案の提出期限を守らない
個人再生は書面で進む手続で、裁判所が決めた期間内に再生計画案を出さないと、手続は廃止されます(給与所得者等再生では民事再生法243条2号)。不足書類の追加提出(補正)にも期限があります。
日弁連の2023年調査では、申立てから認可決定までの期間は平均153.2日でした。約5か月のあいだ、依頼先から求められる書類を期限どおりに出し続ける必要があります。
- 対策:提出物・締切・担当者を1枚の表にまとめる
- 対策:間に合わないとわかった時点で、依頼先に連絡する
8. 認可後の返済の遅れを放置する
再生計画の返済期間は原則3年で、特別の事情がある場合は5年までです(民事再生法229条2項2号)。返済の遅れを放置すると再生計画が取り消され、減額された借金が元に戻るおそれがあります。
- 対策:返済日の前に残高を確認し、口座振替や自動送金を設定する
- 対策:払えない月が出そうなら、遅れる前に依頼先に相談する
個人再生はどのくらいの割合で失敗する?
個人再生が認可決定まで届かない割合は、約1割です。日弁連の2023年調査(個人再生事件773件)では、取下げが5.69%、廃止が2.72%、申立棄却が0.39%で、不認可決定は0件でした。
| 終結内容 | 全体(773件) | 小規模個人再生(604件) | 給与所得者等再生(169件) |
|---|---|---|---|
| 認可決定 | 90.30% | 91.06% | 87.57% |
| 取下げ | 5.69% | 4.64% | 9.47% |
| 廃止 | 2.72% | 2.98% | 1.78% |
| 申立棄却 | 0.39% | 0.33% | 0.59% |
| 死亡終了 | 0.26% | 0.33% | 0.00% |
| 不認可決定 | 0.00% | 0.00% | 0.00% |
| 記入漏れ | 0.65% | 0.66% | 0.59% |
※2022年6月1日〜11月30日に申し立てられた個人再生の記録を、2023年6月〜10月に全国50地裁で調べたもの。数値はデータ編「9.個人再生の終結原因」の件数表による。
出典:日本弁護士連合会「2023年破産事件及び個人再生事件記録調査」(PDF)
小規模個人再生では、債権者の反対で失敗することもあります。同じ調査では、再生計画案に反対する債権者がいなかった事件は573件中543件(94.76%)で、反対した債権者の債権額が全体の2分の1を超えた事件は10件でした。
年齢層ごとの傾向は、個人再生の年齢傾向|50代・60代が増える理由を日弁連2023年データで徹底解説にまとめています。
個人再生ができない・不認可になるのはどんなとき?
個人再生が不認可になる理由は、民事再生法で決まっています。再生計画を払い続ける見込みがない、安定した収入の見込みがない、借金が5,000万円を超える、返済総額が法律の最低額や清算価値を下回る、といった場合です。
| 不認可になる理由 | 条文(民事再生法) |
|---|---|
| 手続や再生計画が法律に違反し、補正できない | 174条2項1号 |
| 再生計画が遂行される見込みがない | 174条2項2号 |
| 再生計画の決議が不正の方法で成立した | 174条2項3号 |
| 債権者の一般の利益に反する(清算価値を下回るなど) | 174条2項4号 |
| 継続的・反復的に収入を得る見込みがない | 231条2項1号 |
| 住宅ローンなどを除く借金が5,000万円を超える | 231条2項2号 |
| 返済総額が最低弁済額を下回る | 231条2項3号・4号 |
| 住宅資金特別条項を使うと届け出たのに計画に入っていない | 231条2項5号 |
※小規模個人再生の場合。給与所得者等再生は241条2項で、可処分所得の2年分以上の返済などが加わります。
最低弁済額は、住宅ローンなどを除く借金の総額によって決まります。
- 3,000万円以下:借金総額の5分の1か100万円の多いほう(借金が100万円未満なら全額、5分の1が300万円を超えるなら300万円)
- 3,000万円超5,000万円以下:借金総額の10分の1
小規模個人再生では、再生計画案に反対した債権者が頭数で半数以上、または債権額で2分の1を超えると、手続は廃止されます(民事再生法237条1項)。
出典:e-Gov法令検索「民事再生法」(2026年5月21日施行の版で確認)
個人再生を使うための条件と手続の流れは、個人再生とは?仕組み・条件・流れをわかりやすく解説で確認できます。小規模個人再生と給与所得者等再生のどちらを選ぶかは、小規模個人再生と給与所得者再生の違いとは?を参考にしてください。
ギャンブルや家計簿の嘘は裁判所にバレる?
ギャンブルや家計簿の嘘は、申立てで出す通帳の写し、給与明細、家計簿を照らし合わせることで判明する可能性が高いです。個人再生委員が選任された場合、委員は財産と収入の状況について報告を求め、帳簿や書類を調べることができます(民事再生法223条8項)。
隠したまま進めて後から判明すると、財産目録や家計簿の不正記載として手続が廃止される原因になります。ギャンブルや浪費があったことは、正直に申告し、やめたことを家計簿で示すほうが手続は進みます。
申立て前の数か月分の出金は、依頼先と一緒に1件ずつ説明できるよう整理しておくと安心です。
認可後の返済中に払えなくなったらどうする?
認可後に返済が苦しくなったら、滞納する前に依頼先へ相談してください。病気や失業などやむを得ない事情があれば、返済期間を延ばす方法と、残りの返済を免除してもらう方法があります。
- 再生計画の変更:やむを得ない事情で返済が著しく難しくなったとき、返済期限を最長2年延ばせる(民事再生法234条1項)
- ハードシップ免責:本人の責任ではない事情で返済が極めて難しくなり、計画の4分の3以上を払い終えているなどの条件を満たすと、残りの返済が免除される(同法235条1項)
どちらも裁判所への申立てが必要です。滞納を続けて再生計画が取り消されてからでは、使えなくなる場合があります。
認可後も、新たな借入や大きな買い物、財産の名義変更は控えてください。個人再生後のクレジットカードやローンの審査については、債務整理のブラックリストはいつから何年?で確認できます。
個人再生に失敗したらどうなる?
取下げ・廃止・不認可で個人再生が終わると、借金は減額されず、元の借金と遅延損害金を払う義務が残ります。債権者からの請求や、給料の差押えなどの強制執行が再開される可能性があります。
失敗した後の対処は、原因によって変わります。
- 原因を確認する:何が理由で、どの段階で手続が止まったかを依頼先と確認する
- 不服申立ての期限を確認する:廃止や不認可の決定に不服があるときは即時抗告という手続があり、期限が短いため決定を受け取ったらすぐ依頼先と相談する
- 次の手続を選ぶ:原因を直して個人再生をもう一度申し立てる、借金がゼロになる自己破産に切り替える、返済額によっては任意整理を検討する
手続の違いは債務整理の種類は4つ|違い・期間を比較して選ぶで比較できます。自己破産を検討する場合は自己破産とは?借金がゼロになる仕組み・デメリット・流れを確認してください。
個人再生のほかのデメリットは、個人再生のデメリット5選|手続きの注意点と後悔しないための対策にまとめています。
個人再生で迷ったとき、誰に相談すればいい?
すでに依頼している場合は、担当の弁護士・司法書士に最初に相談してください。これから依頼する場合は、個人再生の取扱い実績がある事務所を選んでください。
個人再生は地方裁判所の手続で、代理人として申立てができるのは弁護士です。司法書士は、申立書類の作成で支援します。
債務整理相談ナビが債務整理の経験者100人に行った調査(2026年6月、うち個人再生の経験者22%)では、69.0%が「もっと早く相談すればよかった」と回答しました。迷っている段階で相談すれば、借入や財産の処分といった、後から取り消せない行動を避けられます。
自分に個人再生が向いているかわからない場合は、債務整理の診断ツールで、7問の質問に答えて任意整理・個人再生・自己破産のどれが向いているかの方向性を確認できます。
