
「自己破産する人は、収入が極端に低い人なのではないか」そうしたイメージを持つ方も少なくありません。
しかし、日本弁護士連合会(日弁連)が実施した全国規模の調査データを見ると、自己破産に至った人の収入状況は、単純に「低収入」という言葉だけでは説明できない実態が浮かび上がります。
2023年に公表された日弁連調査によると、自己破産者の平均月収は 13万8,038円。さらに、月収15万円未満の層が全体の過半数を占め、とくに女性の割合が高いことが明らかになっています。
この記事では、日弁連の公式調査データをもとに、自己破産する人の平均月収や収入分布、前回調査からの推移を整理しながら「収入がどの水準になると、なぜ破綻リスクが高まるのか」を客観的に解説します。
自己破産者の平均月収はいくらか
2023年調査の平均月収は13万8,038円
日弁連の2023年調査によると、破産債務者の平均月収は 13万8,038円 でした。前回調査(2020年)の 14万2,021円 からは減少しています。
過去の調査と比較すると、以下のような推移となっています。
長期的に見ると横ばい〜微減傾向
| 23調査 | 20調査 | 17調査 | 14調査 | 11調査 | 08調査 | 05調査 | |
| 平均月収 | 13万8038円 | 14万2021円 | 12万7270円 | 13万1612円 | 111万7576円 | 12万 1288円 | 11万61円 |
自己破産者の収入分布を見る
月収15万円未満が過半数を占める
2023年調査では、月収帯別の分布も公表されています。その結果、月収15万円未満の層が全体の57.59% を占めていました。
最も多いのは「10〜15万円」の収入帯
内訳は以下のとおりです。
| 月収帯 | 23調査 | 20調査 | 17調査 | 14調査 | 11調査 | 08調査 | 05調査 |
| 0-5万円 | 16.87% | 13.23% | 20.03% | 20.24% | 25.28% | 26.89% | 33.36% |
| 5-10 | 16.71% | 15.89% | 15.27% | 16.61% | 15.72% | 14.26% | 14.20% |
| 10-15 | 24.01% | 23.06% | 21.41% | 23.63% | 21.72% | 18.28% | 18.47% |
| 15-20 | 16.06% | 20.56% | 18.34% | 17.26% | 15.40% | 16.64% | 13.50% |
| 20-25 | 12.49% | 13.79% | 11.87% | 8.55% | 10.53% | 12.21% | 10.63% |
| 25-30 | 6.89% | 6.53% | 6.06% | 6.05% | 5.11% | 6.31% | 4.44% |
| 30以上 | 6.33% | 4.11% | 4.04% | 6.53% | 3.89% | 3.44% | 4.70% |
| 不明 | 0.65% | 2.82% | 2.99% | 1.13% | 2.35% | 1.97% | 0.70% |
最も多いのは 「10〜15万円」 の収入帯で、全体の約4分の1を占めています。
月収15万円未満で女性の割合が高い理由
女性は71.71%が月収15万円未満
月収15万円未満の層を男女別に見ると、顕著な違いが確認できます。
- 男性:47.58%
- 女性:71.71%
女性の約7割が月収15万円未満であり、男性よりも低収入層に集中していることがわかります。
この傾向は前回調査でも見られ、2023年調査でさらに差が広がっています。
金額より「収入構造」が影響している可能性
この結果から考えられるのは、単なる収入額の問題ではなく、
- 非正規雇用の割合が高い
- ボーナスや残業代がない
- 病気・家族事情などで収入が不安定になりやすい
といった 収入構造の違い が、破綻リスクに影響している可能性です。
同じ月収15万円でも、安定性や将来の見通しによって、家計の持続可能性は大きく異なります。
一般的な賃金水準と比べて、自己破産者の収入は低いのか
国税庁データで見る日本の平均年収・月収水準
自己破産者の月収13万8,038円という数字は、極端に低い水準のようにも見えます。
しかし、国税庁が公表している「民間給与実態統計調査」と照らし合わせると、必ずしも例外的な数値ではないことがわかります。
国税庁の令和4年分調査(日弁連の調査対象年と同一)によると、1年を通じて勤務した給与所得者の平均給与は 458万円 で、単純に月換算すると約 38万円 となります。
一方で、雇用形態や性別によって収入水準には大きな差があります。
非正規・女性の平均年収は「月10〜15万円帯」に集中している
同調査では、正社員以外(非正規)で働く人の平均給与は 201万円。月換算すると約 16.8万円 です。
さらに女性に限ると、正社員以外の平均給与は 166万円 とされており、これは月換算で 約13.8万円 となります。
この水準は、日弁連調査における自己破産者の平均月収 13万8,038円 とほぼ一致しています。
つまり、自己破産者の収入水準は、「極端に低い特殊なケース」ではなく、日本社会における非正規・低賃金層の平均的な収入帯と重なっていると捉えることができます。
「10〜15万円の収入帯=破産しやすい」とは限らない
日弁連調査で最も多かった「月収10〜15万円」という層は、この収入帯だから特別に自己破産しやすい、という意味ではありません。
むしろ、社会全体を見たときに、もともと月収10〜15万円前後で生活している人の母数が大きいため、結果として、自己破産に至った人の中でも同じ収入帯が多く見えている可能性があります。
重要なのは収入額そのものではなく、その収入に対して支出や返済が見合っているかどうか、そして収入の安定性や家計の余裕がどの程度あるかという点です。
出典
・日本弁護士連合会「多重債務者の実像と破産事件・個人再生事件の実態調査(2023年)」
・国税庁「令和4年分 民間給与実態統計調査」
収入だけで破産が決まるわけではない
低収入でも破産しない人、高収入でも破産する人
日弁連の調査を見ても、自己破産は「一定以下の収入だから必ず起こる」というものではありません。
実際には、
- 収入に対して生活費や返済額が見合っていない
- 病気・失業などで家計が急変した
- リボ払いを含む少額借入を長期間続けた結果、利息負担が積み重なっている
といった要因が重なった結果として、破産に至るケースが多く見られます。
収入と支出の「バランス」が重要
重要なのは収入額そのものよりも、
- 毎月の固定費
- 借金の返済負担
- 収入の安定性
とのバランスです。
国税庁の調査では、日本全体の平均年収は458万円とされていますが、実際の収入分布を見ると、正社員以外の働き方では年収200万円前後にとどまる人も少なくありません。
こうした背景を踏まえると、月収15万円前後という水準自体が直ちに「異常に低い」わけではなく、その収入でどのような支出構造・返済状況になっているかが問題だといえます。
収入データから見える自己破産の実像
自己破産は特別な人だけの制度ではない
日弁連の全国調査からは、自己破産が一部の極端なケースではなく、
- もともと余裕の少ない収入構造
- 家計を圧迫する支出や返済の積み重ね
- そこに突発的な出来事が重なった結果
として選択されている制度であることが読み取れます。
早めに状況を整理することが重要
収入が減少した場合はもちろん、もともと低めの収入が続いている場合でも、返済が生活を圧迫し始めた段階で状況を整理することが重要です。
「まだ何とか回っている」と感じているうちに、選択肢を整理しておくことが、その後の負担を大きく左右します。

本記事では自己破産データを中心に紹介
なお、この日弁連調査では、破産事件に加えて個人再生事件についても調査が行われていますが、本記事では自己破産に関するデータに絞って紹介しています。
個人再生に関する調査結果については、別記事で詳しく解説します。
- ▶ 債務整理相談ナビ|自己破産・個人再生・任意整理といった債務整理の制度について、公的データや法律に基づき、中立的な立場で情報を整理
- ▶ 自己破産の費用や手続きの流れについて詳しく知りたい方はこちら
- ▶ 自己破産に強い弁護士・司法書士事務所の情報を見る
本記事で使用している日弁連調査について
本記事で紹介したデータは、日本弁護士連合会(日弁連)が実施した全国規模の実態調査に基づいています。
この調査は、全国47都道府県・50の地方裁判所を対象に、無作為抽出された裁判確定記録をもとに分析されたもので、特定の地域や属性に偏らない形で自己破産の実像を捉えることを目的としています。
そのため、すべての破産事件を網羅した「全件調査」ではないものの、当時の自己破産の傾向や構造を把握するうえで、十分に信頼できる資料といえます。
調査の対象範囲や抽出方法、データの位置づけについては、以下の記事で詳しく解説しています。


