時効の援用とは?意味をわかりやすく解説|借金の時効は5年・10年、費用と信用情報への影響

時効の援用とは?
執筆:大泉 聡(弁護士・司法書士に取材)

監修者:弁護士 多田大介

時効の援用とは、借金の消滅時効の期間が過ぎたあとに「時効の利益を受けます」と債権者に伝えることです。期間が過ぎただけでは借金は消えず、債務者が援用して初めて、時効を理由に支払いを拒めます(民法145条)。

援用の前提になる時効期間は、債権者が請求できると知った時から5年、または請求できる時から10年で、裁判で確定した借金は10年です(民法166条・169条)。期間の途中で1円でも払ったり、裁判で支払いが確定したりしていると時効は数え直しになり、援用しても認められません。

目次

援用とは?意味をわかりやすく言うと

援用(えんよう)とは、法律では、自分に有利な事実や権利を相手や裁判所に向かって主張することを指します。時効の援用は、「この借金は時効が完成しているので払いません」と債権者に主張することです。

日常語の「援用」は、自分の意見の裏付けとして他の文献や事例を引き合いに出す意味で使われます。法律用語の援用も「自分の主張のために持ち出す」という点は同じで、持ち出すものが時効などの権利になります。

時効の援用で押さえる3点

  • 援用しないと効果が出ない:期間が過ぎても、借金が自動で消えるわけではない
  • 援用できるのは時効が完成してから:完成前に通知しても効果はない
  • 援用は相手に伝わって初めて意味を持つ:証拠を残すため、内容証明郵便で送るのが一般的

民法では時効の援用はどう定められている?

時効の援用は民法145条に定められていて、当事者が援用しなければ、裁判所は時効を前提に裁判できません。条文では、援用できる「当事者」に保証人も含まれると明記されています。

条文内容(e-Gov法令検索の条文から要約)
民法145条(時効の援用)当事者(消滅時効では保証人・物上保証人なども含む)が援用しなければ、裁判所は時効によって裁判できない
民法146条(時効の利益の放棄)時効の利益は、あらかじめ放棄できない
民法166条1項(債権の消滅時効)権利を行使できると知った時から5年、または行使できる時から10年行使しないと、債権は時効で消える
民法169条1項(判決で確定した権利)確定判決などで確定した権利の時効期間は10年

出典:e-Gov法令検索「民法」

民法146条により、借入の契約時に「時効を主張しません」と約束させても、その約束は無効です。

ただし時効が完成したあとに支払ったり、支払いを約束したりして債務を承認すると、時効の完成を知らなかった場合でも、その後に時効を援用することは信義則に照らして許されないと最高裁は判断しています(総務省「参考裁判例集」1ページ(最判昭和41年4月20日))。

連帯保証人も自分の立場で時効を援用できます。保証人の時効の数え方は、連帯保証人でも時効は成立する?いつから5年・10年?で解説しています。

時効を援用するとどうなる?

時効の援用が認められると、借金の元本・利息・遅延損害金のすべてについて、債権者からの支払い請求を拒めます。民法166条は、時効によって債権が「消滅する」と定めています(e-Gov法令検索「民法」)。

援用しても、時効が完成していなければ効果はありません。期間の途中で支払いや裁判があったかどうかは、本人の記憶だけでは判断できないことが多いため、援用通知を出す前に確かめる必要があります。

借金の消滅時効は何年?原則5年、判決があれば10年

消費者金融やカード会社からの借金の消滅時効は、原則として5年です。民法166条1項は「権利を行使できると知った時から5年」と「権利を行使できる時から10年」の早い方で時効が完成すると定めていて、貸金業者は返済期日を把握しているため、5年の方が先に来ます(e-Gov法令検索「民法」)。

借金の状態時効期間根拠
消費者金融・カード会社などの通常の借金5年(請求できると知った時から)民法166条1項1号
債権者が請求できることを知らずに10年が先に来る場合10年(請求できる時から)民法166条1項2号
裁判(判決・支払督促・和解など)で確定した借金確定から10年民法169条1項

2020年4月1日施行の改正民法(法務省「民法の一部を改正する法律(債権法改正)について」)で、商法の5年の消滅時効(商事時効)は廃止され、民法の5年・10年に統一されました(法務省「消滅時効に関する見直し」2ページ)。

2020年3月31日以前に借りた借金や、それ以前に結んだ契約に基づく借金の消滅時効の期間には、原則として改正前の民法が適用されます(法務省「民法の一部を改正する法律(債権法改正)の施行に伴う経過措置」4ページ)。時効はいつから数える?

借金の時効は、借りた日や最後に連絡が来た日からではなく、債権者が返済を請求できるようになった日から数えます。この日を起算点といいます。

  • 一括返済の契約:返済期日の翌日から数える
  • 分割払い・リボ払い:延滞が続いて「期限の利益」(分割で払えばよいという権利)を失った日の翌日から数えることが多い。期限の利益を失う条件は契約書の条項で決まる
  • 最後に返済した日:起算点の目安にはなるが、契約や延滞の状況によって起算点とずれることがある

最終返済日がわからない場合は、信用情報機関(JICC・CIC)に本人開示を申し込むと、借入や延滞の記録を確認できます(JICC「開示手続き」)。

時効の援用ができないのはどんなとき?

時効の援用ができないのは、期間の途中で「更新」か「完成猶予」が起きている場合です。更新は時効期間がゼロから数え直しになること、完成猶予は時効の完成が一定期間先送りになることを指します。

2020年の民法改正前は、更新を「中断」、完成猶予を「停止」と呼んでいました(法務省「消滅時効に関する見直し」9〜10ページ)。

ケース時効への影響根拠
一部でも返済した、「払います」と認めた(債務の承認)更新(その時から数え直し)民法152条1項
裁判を起こされた・支払督促を申し立てられた手続き中は完成猶予、判決などで確定すると更新民法147条
書面や電話で請求された(催告)6か月間の完成猶予(再度の催告では延びない)民法150条

出典:e-Gov法令検索「民法」

債権者からの電話に「分割なら払える」「来月なら払う」と答えると、債務の承認と扱われるおそれがあります。時効の援用を考えている間は、支払いの約束や少額の入金をしないことが大切です。

裁判所から支払督促が届いた場合は、受け取った日から2週間以内に督促異議を申し立てないと、債権者の申立てにより仮執行の宣言が付き、その後も異議がなければ確定判決と同一の効力を持ちます(民事訴訟法391条1項・396条)。

確定判決と同一の効力を持つと、時効期間は10年になります(民法169条1項)。対応の手順は督促異議申立書の書き方・記入例|支払督促が届いたら2週間でやることで解説しています。更新や完成猶予を見落として援用に失敗した例は、時効の援用の失敗例3つ|自分でやる前の注意点と対処法にまとめています。

時効の援用は自分でできる?手順と郵便の費用

時効の援用は自分でもでき、内容証明郵便に配達証明を付けて送る場合、郵便料金は1枚なら1,420円です。法律上は口頭や普通郵便でも援用できますが、いつ・何を伝えたかの証拠が残るよう、内容証明郵便に配達証明を付けて送るのが一般的です。

自分で援用する3ステップ

  1. 時効が完成しているか(期間・更新・完成猶予)を確認する
  2. 時効援用通知書を作る(契約者名・契約番号・援用する旨を書く)
  3. 内容証明郵便(一般書留)+配達証明で送り、控えと配達証明書を保管する
料金の項目金額
定形郵便物(50g以内)110円
一般書留+480円
内容証明(謄本1枚目)+480円(2枚目以降は1枚ごとに+290円)
配達証明(差出時)+350円(差出後に依頼すると480円)
合計(1枚の場合)1,420円

出典の料金は2026年10月に日本郵便のサイトで確認したものです。2枚なら1,710円、3枚なら2,000円になります。

通知書の書き方とテンプレートは時効援用のやり方|自分で送る手順と通知書テンプレ(内容証明+配達証明)で紹介しています。

時効の援用は弁護士と司法書士のどちらに頼む?

時効の援用は、借金の額にかかわらず弁護士に頼めて、1社あたりの借金が140万円以下なら認定司法書士にも頼めます。債権者が時効を争って裁判になったときまで任せられるかが、依頼先によって違います。

依頼先によって、代わりにできる範囲は次のとおりです。

  • 弁護士:金額の制限なく、代理人として債権者とやりとりできる
  • 司法書士:認定司法書士であれば、紛争の目的の価額が140万円以下の事件に限り代理できる(司法書士法3条1項7号、裁判所法33条1項1号)
  • 行政書士:報酬を得て債権者との交渉を代理することは、弁護士法72条で、弁護士(140万円以下の事件は認定司法書士)以外には認められていない(e-Gov法令検索「弁護士法」)

依頼費用は債権者1社ごとの報酬と郵便などの実費で決まり、事務所ごとに料金表が違います。見積もりを取るときは、次の5点を確認します。

  • 料金が債権者1社あたりか、総額か
  • 郵便などの実費が別か込みか
  • 成功報酬があるか
  • 債権者が時効を争ったときや裁判になったときの追加費用
  • 本人名義ではなく、代理人名義で通知を送ってもらえるか

債務整理相談ナビが債務整理経験者1,024人に行った調査(2023年7月)では、相談先選びで最も大切なポイントは「解決能力・経験値」35.8%、次いで「トータル費用」32.0%でした(債務整理経験者1,024人に聞いた「相談先の決め手」)。時効の援用を頼む場合も、時効の成否を判断できる経験と、債権者の数をかけた費用の合計を並べて比べます。

時効の援用をするとブラック(信用情報)はどうなる?

JICCでは、時効の援用をして債権者(登録会社)と認識が一致した場合、時効の起算日にさかのぼって完済として登録され、その時点で登録期間を過ぎていれば情報は消されます(JICC「よくあるご質問(信用情報の登録期間)」。CICの保有期間の案内ページには、時効援用の扱いは書かれていません。

信用情報機関主な登録期間出典
CICクレジット情報:契約期間中および契約終了後5年間/申込情報:照会日から6か月間CIC「CICが保有する信用情報」
JICC契約日2019年10月1日以降の個人の契約内容・返済状況:契約終了後5年以内/債権回収・債務整理などの取引事実:契約日2019年10月1日以降は契約継続中および契約終了後5年以内(2019年9月30日以前の契約は発生日から5年を超えない期間)/申込み情報:照会日から6か月以内JICC「信用情報の内容と登録期間」

援用の前と後の登録内容は、JICC・CICに本人開示を申し込めば確認できます(JICC「開示手続き」)。

信用情報に延滞の記録が残っている間は、クレジットカードの申込み、ローン、スマホ本体の分割購入の審査に影響することがあります。審査の基準は各社が決めています。債務整理をした場合の登録期間は債務整理でブラックリストに載る期間で比べられます。

時効が成立していなかったらどうする?

時効が成立していない借金は、援用では解決できないため、任意整理・個人再生・自己破産などの債務整理で返済の負担を減らす方法を検討します。

どの手続きが合うかは、借金の総額と毎月返せる金額で変わり、借金の総額を毎月の返済可能額で割って36(3年)以内なら任意整理・特定調停を検討する目安とされています(金融庁・消費者庁「多重債務者相談の手引き」2011年8月、29ページ)。

債務整理相談ナビが債務整理の経験者100人に行った調査(2026年6月)では、手続きを決断したきっかけの2位が「消費者金融やカード会社から督促を受けた」20.0%で、手続きを振り返って「もっと早く相談すればよかった」と答えた人は69.0%でした(債務整理「もっと早く相談すればよかった」が69%—経験者100人のきっかけ・家族への影響調査)。

時効が完成しているかどうかわからないまま債権者に連絡すると、承認と扱われて時効が数え直しになるおそれがあります。債権者に連絡する前に、弁護士・司法書士の相談(無料相談の事務所も多い)で、時効が完成しているかと、完成していない場合にどの債務整理が合うかを確かめます。

時効の援用に関するよくある質問

5年たてば借金は自動で消えますか?

5年たっても、借金は自動では消えません。民法145条により、債務者が時効を援用しなければ、時効を前提にした裁判はされません(e-Gov法令検索「民法」)。

時効の完成前に1円でも払ったらどうなりますか?

時効の完成後に払った場合も、時効の完成を知らなかったかどうかにかかわらず、その後に時効を援用することは許されないと最高裁は判断しています(総務省「参考裁判例集」1ページ(最判昭和41年4月20日))。

債権者から電話が来たら「時効です」と伝えればいいですか?

口頭でも援用はできますが、証拠が残らず、言い方によっては承認と受け取られるおそれがあります。電話では支払いの約束や分割の相談をせず、内容証明郵便で援用通知を送るのが確実です。

時効の援用は内容証明郵便でないと無効ですか?

内容証明郵便でなくても、時効の援用は無効になりません。内容証明郵便と配達証明を使うと、通知の内容と相手に届いた日を郵便局が証明するため、後で争いになったときの証拠になります。

時効の援用をしたら信用情報(ブラック)は消えますか?

時効の援用をしても、登録済みの延滞情報がすぐ消えるとは限りません。CICのクレジット情報は契約終了後5年間、JICCの個人の契約情報(2019年10月1日以降の契約)は契約終了後5年以内が登録期間です(CIC・JICC)。

JICCでは、援用して債権者と認識が一致すれば時効の起算日にさかのぼって完済として登録されます(JICC「よくあるご質問(信用情報の登録期間)」)。JICC・CICに本人開示を申し込むと、現在の登録内容を確認できます。

時効の援用は家族の借金にも使えますか?

時効を援用できるのは、債務者本人と、保証人など時効で正当な利益を受ける人です(民法145条)。保証人になっていない家族は、家族の借金について自分の権利として時効を援用することはできません(e-Gov法令検索「民法」)。

監修者

この記事の監修者
弁護士 多田 大介 クオレ法律事務所代表

弁護士 多田 大介
クオレ法律事務所代表。

早稲田大学政治経済学部経済学科卒業、2004年大阪弁護士会(司法修習57期)登録。勤務弁護士、共同事務所を経て、クオレ法律事務所を開設。

任意整理、自己破産、小規模個人再生など一般消費者の債務整理に注力しており、多数の事件を手掛けている。

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