
監修者:弁護士 多田大介
時効の援用とは、消滅時効が完成している借金について、「時効の利益を受けます」と債権者に伝える意思表示です。
援用が認められれば、支払い請求に対して時効を理由に支払いを拒む主張ができる一方で、途中の支払い・承認・裁判などで時効が更新(旧:中断)していると通りません。
この記事では、「援用」という言葉の意味から、消滅時効の期間(原則5年・例外10年)、起算点(返済期限/期限の利益喪失)、失敗が増える典型パターン、自分で送る実費と費用相場、信用情報(いわゆるブラック)への影響まで、判断に必要なポイントだけを整理します。
時効の援用とは?意味をわかりやすく解説

- 時効の援用とは、消滅時効が完成していることを前提に、「時効の利益を受ける」意思表示を相手(債権者)に伝えることです。
- 時効は“期間が過ぎただけ”では効きません。援用しない限り、時効による効果は実務上発生しません。
- ただし、時効が完成していないのに通知すると不利益が出ることがあるため、送付前に「期間」「更新(旧:中断)」「完成猶予」を確認する必要があります。
「援用(えんよう)」ってどういう意味?
法律でいう「援用」は、日常語の「援用する(=引き合いに出す)」よりも少し硬く、ざっくり言うと 「その権利(利益)を使うと相手に主張すること」 です。
- 時効を援用する:時効で消える利益を「受けます」と相手に伝える(主張する)
- (例)契約の解除を援用する:解除できる根拠を使って「解除します」と主張する
つまり「時効の援用」とは、“時効が完成している”ことを前提に、その利益を受ける意思表示をする行為だと理解するとスムーズです。
時効援用するとどうなる?(効果)
消滅時効が完成している場合、時効を援用すると 債権者からの支払い請求に対して「時効だから払わない」と主張できるようになります。
結果として、元本・利息・遅延損害金の支払いを求められても、法的に争える余地が生まれます。
※ただし、途中で「更新(旧:中断)」や「完成猶予」があると、援用しても通らないことがあります(下の章で解説)。
根拠(法律上の位置づけ)
時効は「援用」があって初めて主張できる
消滅時効が完成していても、当事者が援用しなければ、裁判所は時効を前提に判断できません。条文の趣旨:時効は“自動で適用される仕組み”ではなく、当事者が主張して初めて使える権利です。
条文で確認(要旨)
※全文はe-Gov法令検索(民法)で確認できます。ここでは読みやすさ優先で要旨だけ書きます。
- 民法145条(要旨):時効は、当事者が援用しなければ、裁判所は時効を前提に判断できない。
→ 期間が経っても「自動で借金が消える」のではなく、援用(主張)が必要という根拠です。 - 民法146条(要旨):時効の利益は、あらかじめ放棄できない。
→ 時効が完成する前に「時効は使いません」という合意をさせられない趣旨です。 - 民法166条・167条(要旨):権利を行使できることを知った時から5年、または行使できる時から10年で消滅時効が完成する(原則)。
→ 本文の「5年/10年」の根拠条文です。
「時効の利益の放棄」に注意
時効完成後に支払ったり、支払う約束をしたりすると、「時効の利益を放棄した」と評価されるおそれがあります。
時効を主張したい場合は、完成後であっても不用意な支払い・約束は避けます。
借金の消滅時効は何年?原則5年・例外10年
消滅時効が完成していることが、援用の前提です。
原則:5年/10年(2020年4月以降のルール)
多くの借金では、「権利」とは 債権者が返済を請求できる権利(返済請求権) のことです。消滅時効は原則として、次のいずれか早い方で完成します。
- 債権者が「請求できる」と知った時から 5年
- 「請求できる状態」になった時から 10年
※借金は債権者が期日管理しているため、実務上は「知った時=請求できる時(返済期日)」と同じになることが多く、結果として “原則5年” と理解するとスムーズです。
例外:確定判決などで「10年」
裁判で確定判決等により権利が確定すると、10年の時効が問題になることがあります。
いつから数える?起算点は「返済期限(請求できる日)」が基本
消滅時効のカウントは「借りた日」や「最後に連絡が来た日」ではなく、原則として 債権者が返済を請求できる状態になった日(=返済期限) から始まります。
この「いつから数えるか」を 起算点 といいます。
一括払いの場合:弁済期日の翌日から
一括返済の契約なら、弁済期日(返済期限)の翌日から時効期間を数えるのが基本です。
分割・リボの場合:期限の利益を失った日の翌日からになることが多い
分割払いやリボ払いは、本来「毎月少しずつ払えばよい」という利益(=期限の利益)があります。
ただし延滞が続くと、契約条項により 期限の利益を喪失して一括請求できる状態 になることが多く、その場合は 期限の利益喪失日の翌日 が起算点として扱われやすいです。
※「最終返済日」は目安にはなりますが、起算点そのものと一致しないことがあります(契約・延滞状況でズレます)。
裁判で確定した場合は別枠(“起算点”より「10年」ルールが問題になりやすい)
裁判で権利が確定(判決など)すると、そこから 10年 が問題になることがあります。この場合は、通常の「返済期限から5年」とは別の整理になります。
援用できない(または危険が増える)典型パターン
時効の援用は「期間が経っている」だけでは足りず、途中で 時効がリセット(更新) されたり、一時停止(完成猶予) していると成立しません。
援用通知を出す前に、まずここを確認します。
1) 更新(旧:中断)が起きている
更新とは、一定の出来事があると、それまで進んでいた時効期間がゼロから数え直しになることです。次のような事情があると、更新と扱われることがあります。
- 一部でも支払った(少額でも「支払意思あり」と見られやすい)
- 電話や書面で 「払います」と認めた(債務の承認)
- 裁判(支払督促・訴訟など)で権利が確定した など
※よくある落とし穴:債権者からの連絡に対して、事情説明のつもりで「分割なら…」「来月なら…」と言うと、承認と評価されるリスクがあります。
2) 完成猶予が起きている
完成猶予とは、一定の事情があると、時効が完成しない(ゴールが先送りになる)扱いになることです。たとえば 催告(請求) があった場合などに、一定期間だけ完成が猶予される場面があります。
※更新(支払い/承認/裁判など)や完成猶予は、判断を誤ると援用が通らない原因になります。より具体的な「失敗パターン」と確認ポイントは、別記事で整理しています。
自分で時効援用する手順は別記事で解説(テンプレあり)
ここでは「全体像」だけ押さえます。通知書テンプレや書き方、郵便局での出し方は別記事で詳しく解説しています。
- ① 時効が完成しているか(期間・更新/完成猶予)を確認
- ② 時効援用通知書を作成
- ③ 内容証明郵便+一般書留+配達証明で送付し、控えを保管
▶ 詳しい手順・テンプレ:時効援用のやり方(自分でやる場合/通知書テンプレ)
時効援用の費用相場(自分で送る/依頼する)
時効援用の費用は大きく ①郵便などの実費 と ②(依頼するなら)専門家報酬 に分かれます。「安い/相場」で探している方は、まずこの2つを分けて考えるのがコツです。
1) 自分で送る場合(実費):だいたい1,420円〜
内容証明郵便は 「手紙の基本料金」+「一般書留」+「内容証明」+(任意で)「配達証明」 の合計です。
最小セット(配達証明あり・1枚)
- 手紙(定形50gまで):110円
- 一般書留:+480円
- 内容証明(1枚目):+480円
- 配達証明:+350円
→ 合計:1,420円
2枚目以降の加算
- 内容証明は 2枚目以降 +290円/枚
→ 2枚なら 1,710円、3枚なら 2,000円 が目安です。
※「配達証明」は任意ですが、到達日を記録として残したい場合に使われます(差出後に請求すると料金が変わる点に注意)。
2) 専門家に依頼する場合(相場):実費+1社ごとの報酬
依頼費用は事務所ごとに異なりますが、目安としては次のようなレンジで語られることが多いです(※スムーズに成立するケースの想定)。
| 依頼先 | 費用の目安(1社あたり) | できることの目安 |
|---|---|---|
| 行政書士 | 1〜3万円程度 | 書類作成中心(代理交渉は不可) |
| 司法書士 | 5〜8万円程度 | 代理対応(※元本140万円以下が原則) |
| 弁護士 | 5万円〜 | 代理対応(額の制限なし) |
※事務所によっては 成功報酬(例:消滅した金額の一定割合) が加算される料金体系もあるため、見積り時に確認します。
3) 「安い」だけで決める前に、見積りで確認する5項目
- 料金は 「1社あたり」 か(債権者が増えると総額が増えやすい)
- 実費(郵便代など)は 別 か 込み か
- 成功報酬 の有無(あるなら条件と計算方法)
- トラブル時(時効成立の争い/裁判対応)の追加費用
- 「代理人として送付できるか」(本人名義送付のみだと負担が残る)
時効援用と信用情報(いわゆるブラック)への影響
まず前提として、信用情報は「ブラックリスト」という名簿があるわけではなく、クレジットやローンの契約内容・支払状況(延滞の有無など)が記録される仕組みです。
クレジット会社等は、申込みや利用途上の審査で信用情報を確認します。
なぜ信用情報を気にするの?
延滞などの情報が残っている間は、次のような場面で不利になることがあります(審査基準は各社が判断)。
- クレジットカードの新規申込み・更新
- カードローン、各種ローン(車・教育など)
- スマホ本体の分割購入(割賦審査)
「借金が時効で消えるか」と「次の契約が通るか」は別問題になりやすいので、気にする人が多いポイントです。
時効援用は“新しい事故情報”を増やす?
時効援用そのものが、新たな延滞(異動)を発生させる行為ではありません。
ただし、すでに延滞等で登録されている情報がある場合、援用が成立しても“すぐ消える”とは限りません。
なぜすぐ消えないことがあるの?
理由はシンプルで、信用情報は「一定期間は保有される」運用だからです。
- CIC:クレジット情報は 契約期間中および契約終了後5年以内 など、情報の種類ごとに保有期間があります(申込情報は6か月など)。
- JICC:通常、情報は 契約終了から5年間 登録されます(例外あり)。
また、時効援用が成立した場合の反映は、「債権者(登録会社)が、時効成立を前提に情報を訂正・更新するか」 に左右されます。
JICCの案内でも、時効援用については「債権者(登録会社)との認識に相違がない場合」に、時効の起算日に遡って完済として登録される旨が示されています。
(=揉めていると反映が遅れたり、そもそも訂正されないことがあり得ます)
まずやるべきこと:開示で現状確認
信用情報は、JICC / CICで本人開示して確認できます。
「いま何が登録されているか」(延滞なのか、契約が終了扱いになっているか、残高がどう表示されているか)を見たうえで、次の動きを決めるのが安全です。


