
「連帯保証人に勝手にされた」と気づいたとき、最初にすべきことは支払いではなく、保証契約がそもそも成立しているかの確認です。
保証契約は、本人が同意し、かつ書面または電磁的記録に残されていなければ効力を生じません(民法446条2項・3項)。口約束だけでは成立せず、家族が代わりに署名した契約も、本人の意思に基づいていなければ有効とはいえません。
一方で、実印が押されていた場合や、スマートフォンで電子同意した記録が残っている場合は、「知らない」と伝えるだけでは足りません。どの証拠を、どの順番で確認するかが結果を左右します。
この記事では、請求を受けた側が実際に取れる手順を、契約書の取り寄せ、署名押印の否認、無効・取消しになり得るケース、裁判所から書面が届いた場合の対応の順で説明します。
支払う前に確認する5つの手順
心当たりのない請求に対して、いきなり払う・いきなり無視する、のどちらも不利に働きます。次の順番で進めます。
| 順番 | やること | 目的 |
|---|---|---|
| 1 | 債権者に保証契約の写しを請求する | 契約が存在するかを確かめる |
| 2 | 署名・押印が自分のものか確認する | 誰が作成した書面かを特定する |
| 3 | 心当たりがない間は支払わない | 追認と受け取られる行為を避ける |
| 4 | 事業用の借入なら公正証書の有無を確認する | 方式を欠く保証は効力を生じない |
| 5 | 裁判所からの書面は期限を最優先で確認する | 期限を過ぎると争えなくなる |
1.債権者に保証契約の写しを請求する
請求してきた相手(銀行、信用保証会社、貸金業者、家賃保証会社など)に、次の資料を求めます。電話ではなく、書面かメールなど記録の残る方法で依頼してください。
- 保証契約書、または申込書・同意書の写し
- 電子契約の場合は、同意した日時・同意の方法・本人確認の手段が分かる記録
- 契約日と保証の範囲(根保証であれば極度額と元本確定期日)
保証契約は書面か電磁的記録がなければ効力を生じないため、債権者は通常どちらかを保管しています。これらが提示されない場合、請求する側が契約の成立を証明できないことがあります。
2.署名・押印が自分のものか確認する
写しが届いたら、署名の筆跡、印影、住所、生年月日、勤務先の記載を確認します。自分が書いたものでなければ、「保証契約をした覚えがない」「署名押印は自分のものではない」と明確に伝え、そのやり取りを書面で残します。
ここで実印の印影があると、対応の難易度が上がります。私文書は、本人の署名または押印があるときは真正に成立したものと推定されます(民事訴訟法228条4項)。
さらに、印影と作成名義人の印章が一致すると立証されれば、その印影は本人の意思で押されたものと推定されるという判例があります(最判昭和39年5月12日・民集18巻4号597頁)。この二段構えの推定は、押印に関するQ&A(内閣府・法務省・経済産業省)のQ4で解説されています。
ただしこれは推定であり、覆らないものではありません。同じQ&Aは、印章の盗用や冒用によって他人がその印章を利用した可能性があるといった反証がなされれば、推定は破られ得ると説明しています。
実印が押されていると「自分は押していない」と説明する側に負担が生じるのは事実です。ただ、印鑑を誰がどこで保管していたか、その時期に誰が持ち出せたかを具体的に示せるかどうかが分かれ目になります。
保管状況と当時の生活の状況を、早い段階で時系列に書き出しておいてください。
3.心当たりがない間は支払わない
次のような行動は、保証を認めた(追認した)と受け取られる可能性があります。
- 請求額の一部でも入金する
- 「分割にしてもらえれば払います」と伝える
- 内容を確認しないまま新しい書面に署名する
- 債権者が用意した和解書や承認書に押印する
証拠を確認するまでは、支払いや支払いを前提とした合意を保留する旨だけを伝えてください。すでに一部を支払ってしまった場合でも、その時点で契約の成立が確定するわけではありません。支払った経緯を記録に残したうえで、専門家に事情を説明してください。
4.事業用の借入なら公正証書の有無を確認する
主債務が事業のために負担した貸金等債務で、個人が保証人になる場合は、保証契約の締結日の前1か月以内に公証人が本人と面談し、保証意思宣明公正証書を作成していなければ、保証契約の効力が生じません(民法465条の6)。
この公正証書は本人が公証役場に出向いて作成する必要があり、代理人による作成もウェブ会議によるリモート作成もできません。手数料は保証契約1件につき原則1万3000円です(保証意思宣明公正証書の手続と手数料|日本公証人連合会・2026年7月時点)。
言い換えると、あなたが公証役場に行った記憶がないのに事業用融資の保証人にされているなら、方式を欠いた保証である可能性があります。まず「公正証書を作成したか」を確認してください。
なお、保証人が法人である場合、主債務者である法人の取締役や議決権の過半数を持つ人が保証する場合、個人事業主の共同事業者やその事業に現に従事している配偶者が保証する場合は、この公正証書は不要とされています。
5.裁判所からの書面は期限を最優先で確認する
支払督促や訴状が届いている場合は、証拠の確認と並行して期限の管理が必要になります。支払督促は、受け取ってから2週間以内に督促異議を申し立てないと、債権者が仮執行宣言を申し立てられる状態になります。
手続の進み方と異議申立書の書き方は、督促異議申立書の書き方・記入例で確認してください。
裁判所からではなく、債権者や債権回収会社から届いた書面であれば、種類によって意味が変わります。催告書とは?届いたときの対処法と督促状との違いで、書面の位置づけを先に把握しておくと判断しやすくなります。
保証契約は書面か電磁的記録がなければ効力を生じない
民法446条は、保証人が負う責任と、保証契約に書面が必要であることを定めています。
- 保証人は、主たる債務者が債務を履行しないときに、その履行をする責任を負う(1項)
- 保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない(2項)
- 保証契約が電磁的記録によってされたときは、書面によってされたものとみなす(3項)
書面または電磁的記録を必要とするこの決まりは、2004年(平成16年)の改正で加えられたもので、頼まれて断り切れないまま保証人になってしまう事態を防ぐ趣旨とされています。条文そのものは民法446条で確認できます。
ここで注意したいのは、電磁的記録も書面と同じ扱いになる点です。スマートフォンで同意ボタンを押した、メールで承諾を返した、というケースでも保証契約が成立していることがあります。
「紙に署名していない=無効」ではありません。電子契約が争点になるときは、同意した日時、同意に使われた端末やメールアドレス、本人確認の方法が確認できるかどうかが分かれ目になります。
保証契約が無効・取消しになり得るケース
保証契約の効力が否定される、あるいは取り消せる可能性があるのは、主に次の場合です。
| ケース | 根拠 | 効果 |
|---|---|---|
| 本人が同意しておらず、署名押印も本人のものでない | 民法446条 | そもそも契約が成立していない |
| 保証契約が書面にも電磁的記録にも残っていない | 民法446条2項・3項 | 効力を生じない |
| 未成年者が法定代理人の同意なく保証した | 民法5条 | 取り消せる |
| 成年被後見人が保証した | 民法9条 | 取り消せる |
| 意思能力を欠く状態で保証した | 民法3条の2 | 無効 |
| 個人根保証契約に極度額の定めがない | 民法465条の2第2項 | 効力を生じない |
| 事業用融資で保証意思の公正証書がない | 民法465条の6 | 効力を生じない |
| 事業のための債務について頼まれて保証したが、主債務者が財産状況を偽っており、債権者もそれを知り得た | 民法465条の10 | 取り消せる |
※このうち表の下2行に記載した465条の6と465条の10は、事業のために負担した債務についての保証に限られます。住宅ローンやカードローンなど、事業と関係のない借入には当てはまりません。
「連帯保証人になれる人の条件」を調べる方が多いのは、自分がその条件を満たしていないなら無効ではないか、と考えるためだと思われます。
ただし条件は法律上の制限と、金融機関の審査基準の二層に分かれています。
収入が少ない、他に借入がある、高齢である、といった事情は審査で断られる理由にはなりますが、それ自体が保証契約を無効にする理由にはなりません。上の表に挙げた法律上の事由に当てはまるかどうかを、契約書の記載と照らして確認してください。
勝手に署名された場合、罪に問えるのか
他人が本人になりすまして保証契約書に署名・押印した場合、次の犯罪が成立する可能性があります。
- 有印私文書偽造罪(刑法159条1項):行使の目的で、他人の印章または署名を使用して権利義務に関する文書を偽造した場合。法定刑は3月以上5年以下の拘禁刑
- 偽造私文書等行使罪(刑法161条):偽造した文書を実際に使用した場合
- 私印偽造及び不正使用等罪(刑法167条):印章そのものを偽造した場合や、真正な印鑑を無断で使用した場合
条文は刑法159条で確認できます。なお2025年6月1日施行の改正により、懲役と禁錮は拘禁刑に一本化されています。他社の解説記事には「懲役」と書かれたままのものもあるため、条文を直接確認してください。
ただし、刑事の告訴と、債権者からの請求への対応は別の手続です。告訴が受理されても、それだけで支払義務がなくなるわけではありません。実務上は、債権者に対して契約の不成立を主張しつつ、必要に応じて刑事手続を検討する、という順序になります。
親族が署名した場合でも、文書偽造の罪は成立し得ます。一方で、家族を告訴するかどうかは法律だけで決められる話ではありません。刑事手続を取らずに、債権者との間で契約の効力を争う方法もあります。
親が勝手に子を連帯保証人にしていたとき
実際の相談で多いのは、親や兄弟が本人の実印と印鑑登録証明書を持ち出して契約したケースです。この場合、進め方は次のようになります。
家族間だからと支払いを引き受けてしまうと、その後で契約の不成立を主張することが難しくなります。まずは債権者に対して自分の意思に基づく保証ではないと伝え、その記録を残してください。家族との関係をどうするかは、そのあとで決められます。
同時に、主債務者である家族自身の返済が行き詰まっているなら、その人の債務をどう整理するかが本筋の問題になります。
主債務者が任意整理や自己破産で債務を整理すると、連帯保証人に請求が向かう仕組みは変わりません。この点は自己破産をすると連帯保証人にどんな影響が出るかで整理しています。
保証人と連帯保証人で対応がどう変わるか
同じ「保証人」でも、単純保証と連帯保証では主張できる内容が違います。
| 保証人(単純保証) | 連帯保証人 | |
|---|---|---|
| まず主債務者に請求するよう求める | できる(民法452条・催告の抗弁) | できない(民法454条) |
| 主債務者の財産に先に執行するよう求める | できる(民法453条・検索の抗弁) | できない(民法454条) |
| 保証人が複数いる場合の分割 | 頭数で分割される(分別の利益) | 分割されない |
連帯保証人は、主債務者と同じ立場で全額を請求され得ます。ただしこれは有効な保証契約が成立していることが前提です。契約自体を争っている段階では、この違いは結論に影響しません。両者の責任範囲は保証人と連帯保証人の違いで比較表にまとめています。
契約したことは事実だが支払いを拒みたい、という場合は前提が変わります。その場合の考え方は連帯保証人を拒否・抜け道はあるかを確認してください。また、古い借入であれば時効が問題になることもあります(連帯保証人でも時効は成立するか)。
自分が保証人にされていないかを確認する方法
心当たりのない請求が来る前に、自分名義で何が登録されているかを調べることができます。
信用情報機関のCICでは、加盟しているクレジット会社等が保証人の支払能力を確認するためにCICへ照会し、契約が成立した場合には保証人となった事実が登録されるとしています(CIC公式Q&A「知人がクレジット契約をする際に保証人になりましたが、CICに情報は登録されますか?」)。
つまり、自分の信用情報を開示すると、身に覚えのない照会記録や保証人としての登録が見つかることがあります。開示はスマートフォンや郵送で本人が請求でき、手続の方法はCICの情報開示の案内ページに記載されています。
銀行の借入が中心であれば全国銀行個人信用情報センター、消費者金融が中心であればJICCにも同様の開示制度があります。
開示した結果に心当たりがない登録があった場合は、登録元の会社に直接問い合わせるよう案内されています。ここで得た契約日や契約額は、債権者に契約書の写しを求める際の材料になります。
勝手に保証人にされないための備え
保証契約は本人の同意が前提ですが、実務上は書類と印鑑が揃っていれば形式的に契約が作られてしまいます。事前に打てる手は、次の2つに絞られます。
- 実印、印鑑登録証明書、本人確認書類を家族にも預けないこと。
「役所の手続に使うから」と言われて印鑑登録証明書を渡してしまうと、本人が関与しないまま契約書が作られる余地が生まれます。
必要な場合は、使途を確認したうえで自分で取得し、自分で提出してください。 - 署名を頼まれたその場で答えないこと。保証は無償で、しかも自分に返済能力があるかどうかとは関係なく責任が発生します。
内容を確認する時間を取るだけで、後から契約の有無を争う事態を避けやすくなります。
どこに相談するか
保証契約の成立を争う場面では、契約書の取り寄せ、否認の意思表示、必要に応じた訴訟対応までを一続きで進める必要があります。債権者と直接やり取りする段階から、弁護士や司法書士に窓口を任せる選択肢があります。
同時に、主債務者である家族の借金そのものをどう扱うかを決めないと、請求は止まりません。手続の全体像は債務整理とはで確認できます。
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