個人再生の年齢傾向|50代・60代が増える理由を日弁連2023年データで徹底解説

個人再生する人の年齢構成
執筆者:大泉 聡

個人再生の利用者層が、明確に変化しています。

日本弁護士連合会(日弁連)が公表した2023年の最新調査によると、これまで中心だった40代の割合が大幅に減少し、50代・60代の割合がいずれも過去最高を記録しました。

特に50代は、40代にほぼ並ぶ水準(28.85%)にまで増加しており、「個人再生=働き盛りの世代」という従来の構図が崩れつつあります。

本記事では、この年齢構成の変化が示す社会的背景と、自己破産との制度選択の分岐点を、統計データに基づき解説します。

目次

【年齢構成の変化】40代中心から50代・60代へ。進む利用者の高齢化

日弁連が公表した「2023年 破産事件及び個人再生事件記録調査」によると、個人再生を利用する年齢構成に明確な変化が見られます。

かつて中心だった「働き盛りの40代」が減少し、「定年を見据える50代・60代」が過去最高割合を記録しました。

40代の減少と50代・60代の増加が鮮明に

2020年調査と比較すると、

・40代:38.02% → 30.53%(約7ポイント減)
・50代:25.30% → 28.85%(約3ポイント増)
・60代:6.02% → 9.44%(約3ポイント増)

依然として40代が最多層(30.53%)ですが、50代がほぼ並ぶ水準にまで上昇しており、中心層が「40代から50代へ移行しつつある」状況が読み取れます。

【個人再生申立人の年代別構成比の推移】

年代23調査20調査17調査14調査11調査08調査23破産
30代22.64%23.43%26.34%23.73%23.34%32.37%14.84%
40代30.53%38.02%38.40%34.32%43.51%29.48%19.22%
50代28.85%25.30%22.41%25.56%20.72%20.62%25.63%
60代9.44%6.02%4.85%8.33%6.32%4.53%16.71%
70代以上1.16%0.54%1.57%1.41%0.87%0.29%11.84%

出典:日弁連「2023年 破産事件及び個人再生事件記録調査」

高齢化の背景にある“再起のタイミング”の変化

このデータは、借金問題の法的整理を「どのタイミングで決断するか」が、かつてよりも遅い年齢に移行している実態を示しています。

住宅ローンや定年延長、退職金制度などを背景に、「現役生活の終盤で家計を立て直す」層が増えていると考えられます。

個人再生を利用する人の年齢構成から見える「制度の性格」

日弁連「2023年 破産事件及び個人再生事件記録調査」によると、個人再生を利用する人の年齢構成には、自己破産とは明確に異なる特徴が見られます。

ここでは、30代から70代以上までの層を対象に、各世代がなぜ個人再生を選んでいるのかを読み解きます。

30代|個人再生の中心層から外れつつある世代

個人再生における30代の割合は、2023年調査で 22.64% となっています。

過去調査(2008年:32.37%)と比べると大きく減少しており、同世代の自己破産(23破産:14.84%)よりは高いものの、「個人再生の主役世代」とは言いづらい水準です。

考察

30代は収入の不安定さや転職リスクが高く、住宅ローンを抱えていないケースも多いため、継続的返済を前提とする個人再生より、 早期に生活を立て直せる自己破産が選択されやすい世代と考えられます。

また、住宅ローンをまだ抱えていないケースが多く、「生活のリセット」を優先して自己破産を選ぶ合理性が高い世代です。

40代|かつての中心世代だが比率は大きく低下

40代は2023年調査で 30.53%。依然として最多層ではあるものの、2020年調査(38.02%)から約7ポイント低下しました。

自己破産では同世代が 19.22% にとどまっており、依然として「破産より再生を選ぶ」傾向が強い層といえます。

考察

住宅ローンや家族扶養、社会的信用の維持など、生活基盤を保ちながら借金を整理したい40代にとって、個人再生は合理的な選択肢です。

ただし、比率低下は、コロナ以降の雇用不安や可処分所得減少により、再生要件(安定した返済能力)を満たせない層が増えている可能性を示しているのかもしれません。

50代|個人再生の中心が移行してきている世代

50代の割合は2023年調査で 28.85%。直近の2020年調査と比べると変動は小さいものの、2008年調査(約20%台)から見ると、一貫して増加しています。

考察

個人再生の中心世代は、かつての40代から50代へと徐々に移行してきていると読み取れます。

背景には、住宅ローンの長期化、定年延長、再雇用制度の普及があり、50代でも「返済可能な現役層」として制度を活用できる環境が整ってきたことが挙げられます。

この層の増加は、「完済ではなく再起を目指す現実的選択」として、制度が社会に根付いている証左です。

60代|利用は限定的だが確実に増加している世代

60代は 9.44% と割合自体は大きくありませんが、2008年調査(4%台)からほぼ倍増しており、安定収入を維持できる層を中心に利用が広がっています。

考察

年金収入のみでは利用が難しい一方で、再雇用やパート収入など「働ける60代」が増加していることが背景にあります。

“老後破産”を回避しつつ生活を立て直す手段として、個人再生を選ぶ高齢層が着実に増えています。

70代以上|制度上の限界が明確に現れる世代

70代以上の個人再生は 1.16% にとどまり、自己破産(11.84%)と比べると極めて低い水準です。

考察

個人再生は「継続的な返済能力」を前提とする制度であり、高齢層では実務上の利用が難しいのが実情です。

この差は、個人再生が“再起を支える制度”である一方、自己破産が“生活再建の最後のセーフティネット”として機能していることを端的に示しています。

年齢構成から分かる個人再生という制度の本質

日弁連の統計が示しているのは、個人再生が「誰でも使える万能制度」ではないという現実です。個人再生を選べるのは、次の3つの条件を満たす人に限られます。

個人再生を選択できる条件
  • 継続して働いており、安定した収入がある
  • 住宅や生活基盤を維持したいという明確な目的がある
  • 将来の返済見通しが立てられる

制度の基本的な仕組みや手続きの流れについては、以下の記事で詳しく解説しています。
→ [個人再生とは?仕組み・メリット・デメリットを弁護士監修でわかりやすく解説]

個人再生は、40代〜50代を中心とした「現役・中核層のための再起制度」です。

一方で、年齢が上がるほど利用が難しくなり、自己破産との制度的な役割分担がより明確になります。

個人再生は「再スタートの制度」、破産は「生活再建の最後の手段」。この“線引き”こそ、年齢構成のデータが最も雄弁に語るメッセージといえるかもしれません。

なぜ今、50代・60代のシニア層で「個人再生」が増えているのか?

かつては「高齢になれば自己破産しかない」と言われてきました。

しかし、日弁連の2023年調査では、50代・60代の個人再生利用率がいずれも過去最高を更新。

今、あえて返済義務が残る「個人再生」を選ぶシニア層が増えているのには、明確な社会的背景があります。主な要因は次の3つです。

① 住宅ローン完済時期の高齢化と「マイホームの死守」

現代の50代・60代にとって、家は単なる資産ではなく「老後の居場所」であり、「生活の最後の拠点」です。

晩婚化や35年ローンの長期化により、定年が近づいても住宅ローンが残るケースは珍しくありません。

自己破産を選べば家を手放す必要がありますが、高齢での賃貸契約や引っ越しは現実的に難しい。そのため、「住宅ローンは払い続け、他の借金を圧縮する」個人再生が、住まいを守るための現実的な選択肢として支持されています。

住宅資金特別条項(住宅ローン特則)を活用すれば、住宅を手放さずに再生計画を立てることが可能です。

② 定年退職前に「家計を正常化」する戦略的再起

50代後半から60代にかけて個人再生が増えている背景には、「年金生活に入る前に無借金状態にしておきたい」という計画的判断があるのかもしれません。

  • 想定より退職金が減少した
  • 負債が増え、退職金での完済が難しい
  • 年金から利息を払い続けるのは現実的でない

こうした状況のなか、「まだ給与収入があるうちに再生手続きを済ませる」という動きが広がっているのかもしれません。

老後破産を回避し、退職後の生活資金を確保するための“前倒し型の再建”が増えていると考えることもできます。

「借りたものは返したい」という世代特有の責任感と職業的制約

日弁連の2023年調査によると、個人再生利用者の約8割は給与所得者(正社員)です。

長年社会を支えてきた世代ほど、「借りたものは可能な限り返す」という価値観が根強く、全額免除となる自己破産への心理的抵抗が強い傾向があるのかもしれません。

また、警備員・士業・保険外交員など、自己破産で一定期間資格制限を受ける職種に就いている人も多く、「仕事を辞めずに債務整理できる唯一の手段」として個人再生を選ぶケースも考えられます。

こうした“社会的責任感”と“現役としての立場”の両立が、シニア層の利用増加を後押ししていると考えると腑に落ちると思います。

統計から見える個人再生の「前提条件」と現実的な限界

日弁連の2023年調査は、個人再生が「再起のための有効な制度」である一方で、利用には明確な“前提条件”があることも示しています。

制度の仕組み上、誰でも利用できるわけではなく、収入・返済計画・実行力が問われます。

「継続的な収入」がなければ認可は難しい

個人再生は、圧縮した借金を原則3年間(最長5年)かけて返済し続ける制度です。2023年調査でも、申立人の約8割が正規の給与所得者である点は変わりません。

パートや年金収入のみの場合、返済の継続性が裁判所で厳格に審査されます。

50代後半〜60代で検討する場合は、定年後の再雇用や年収減少を見越した返済計画が求められます。この現実を踏まえ、「安定収入をどう確保するか」が個人再生成功の分岐点となります。

履行テストが示す「計画実行力」の重要性

個人再生では、手続きの途中で実際に数か月間返済額を積み立てる「履行テスト」が行われます。これは“返済能力の最終確認”として機能し、家計管理ができるかを見極める工程です。

50代・60代の利用者が増えている事実は、このテストをクリアできる人が増えていることを意味します。つまり、シニア層が計画的に家計をコントロールできている証拠でもあります。

まとめ:データから自分を客観視する「3つの問い」

日弁連の2023年調査が示したのは、個人再生が「資産を守りながら老後を再建する」ための現実的な制度として、シニア層に定着しつつあるという事実です。

もし今、返済や将来の家計に不安を感じているなら、まずはデータの傾向と自分の状況を照らし合わせ、次の3つの問いを考えてみてください。

  1. 住宅ローン以外の負債を大幅に減らせば、今の家で老後を過ごす見通しは立ちますか?
  2. 定年退職による収入減を見越したうえで、今後3〜5年間の「安定した収支」を維持できそうですか?
  3. 退職金や保険金など、手放したくない「資産の評価額」を正しく把握していますか?

これらの問いに向き合うことが、制度を「他人ごと」ではなく「自分の再建計画」として捉える第一歩になります。

データはあくまで全体の傾向にすぎません。実際にどの制度が最適かを判断するには、資産や返済見通しをもとにした個別シミュレーションが欠かせません。

「自分はデータ上、どの層に近いのか?」を冷静に把握する。その理解が、老後の安心と納得感のある意思決定へとつながります。

本記事では個人再生データを中心に紹介

なお、この日弁連調査では、個人再生事件に加えて破産事件についても調査が行われていますが、本記事では個人再生に関するデータに絞って紹介しています。

自己破産に関する調査結果については、別記事で詳しく解説します。

より詳しい情報

関連シリーズ:自己破産の記事

本記事で使用している日弁連調査について

本記事で紹介したデータは、日本弁護士連合会(日弁連)が実施した全国規模の実態調査に基づいています。

この調査は、全国47都道府県・50の地方裁判所を対象に、無作為抽出された裁判確定記録をもとに分析されたもので、特定の地域や属性に偏らない形で自己破産の実像を捉えることを目的としています。

そのため、すべての個人再生事件を網羅した「全件調査」ではないものの、当時の個人再生の傾向や構造を把握するうえで、十分に信頼できる資料といえます。

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